出迎えに来てくれるスタッフは男性なので遠慮なく荷物を持ってもらい、竹林の結界を抜けていく。
この母屋の先には5つの離れが、木々の合間に点在している。
11月。格子から覗く木々の一部がオレンジに色づいている。この季節に来るのは初めてだ。
水の音。今日一晩、この離れが住処となる
戸を開けるとちゃぶ台が部屋の真ん中にあるなんとも懐かしい光景が現れた。
こちら主室
部屋に到着すると、お茶と甘いものを持ってきてくれた。抹茶大福と五福豆。食べるのがもったいないくらいかわいらしい和菓子だ。
「水の音」には内湯、水風呂、露天風呂、サウナ室が備わるというなんともすごい充実ぶり。水の音に限らず他の離れもほぼ同様だ。
まずは内湯から。いいなぁこのタイムスリップしたような木の風呂。
内湯から外へ出ると奥まったところに露天風呂。いちいち浴衣を着なくとも行ける距離だ。
ここももちろん自分たち専用の温泉だ。
トイレと洗面所が一緒、もしかしたら不便を感じる方もいるかもしれないが、ぼくは逆に南国風なおおらかさを感じて気に入った。
サウナです。毎回そうなのですが、お風呂がたくさんあるのでサウナまでなかなかたどり着けない、、、
日が落ちるにつれてこの部屋はだんだん色気を増して艶めかしくなってきた。ここに身を置いているだけで楽しい。
料理の前にもう一度湯を浴びることにした。
水の音に宿泊なので食事は母屋の個室でいただく。ちなみに前回泊まった花の音の場合は花の音の中にある専用の個室でいただく。
梅黒酢を食前酒に橋本シェフの料理が幕を開ける。黒酢はあの桜島を背景にずらりと並んだかめ壷で醸造される鹿児島の福山黒酢だそうだ。
もうはじめっから橋本シェフの料理に心を奪われてします。
ホタルイカがプリプリで新鮮さが伝わってくる。見た目と同様に味も口の中で鮮やかな彩が花開く。これは食べさせる時の温度まで計算されているようで、ホタルイカが口に入ったときのヒンヤリした清涼感が心地いい。
黒豚とグリル野菜
なんともフルーティーで複雑な風味のソースが口いっぱいに風味が広がり、その汐が引くと、うっかりしているとすぐに飲み込んでしまう柔らかな肉から「出番です」とばかりに肉の旨みが顔を出す。
茄子とたらこの軍艦を口にほうりこみ、箸を置いてじっくり味わう。茄子の風味が高く、海苔と溶け合う。サクッと後ろのほうから揚げたニンニクだろうか。立体的な味の波状攻撃。
ヅアイガニに大根の食感が加わる不思議。オレンジソースは脇役に徹し素材をダイレクトに楽しませてくれる。
なにやらお宝でも入ってそうな器の蓋をとると、、、お造りだ。
マグロ、カンパチ、どちらもたっぷりと上質な脂を細かな繊維の中に蓄えている。
スープマルセイユ
ひと噛みして素材の新鮮さが口の中を支配。プリップリのエビ。火の入れ方が絶妙とはこのことを言うのだろう!半生のような。海鮮スープは角のないマイルド感。そしてたくさんの海鮮エキスが溶けだしたらしいふくよかな風味。クリーミー。
天婦羅盛合せ
チーズと合わせたサヨリ、生ハムを巻いた安納イモ、かつお節をつけて揚げた茄子と、いずれも個性的。
サヨリの儚い風味にチーズが尾ひれをつけて口の中に漂う。余韻を楽しんだ。甘い安納芋ははじめ何もつけずに味わい、途中でトマトソースと口に投入する方法に切り替えた。口の中で刻々と変化する様子を観察した。
そばとろろのせ
出汁がここちいい
鹿児島県産黒毛和牛サーロインの網焼きステーキ。
クライマックスです。表面の香ばしさ、肉と脂のバランスが程よく悦なるひととき。
抹茶のブリュレに秋の香り 小豆アイスと共に
沸き立った気持ちを静めるように、秋の気分への誘うデザート。
母屋から離れの部屋に戻る途中、振り返るとそこは光と闇が織りなす芸術的な世界だった。
おやすみなさい。
ここの滞在は、気負いがいらない。
朝食は夕食と同じ場所でいただく。
味噌汁を一口すする。体が目覚めてくる。
カレイの西京焼き、さつまあげ、レンコンの黒ごま和え、そして貝ヒモの酒のつまみみたいなやつ、これがピリ辛でとんでもなく旨い
朝カレーというのがブームになっているのは知らなかったが、ぼくはこのカレーのおいしさを語るボキャブラリーを持ってない。とにかく旨い!
中から衝撃的な旨さの豚の角煮がごろっつと現れた。濃厚だけどもくどく鳴く、ご飯なしでいただける。
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結界の奥の里ごころ
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味噌汁を一口すする。体が目覚めてくる。
こんなちょっとした時間が愛おしい。
鹿児島に来るのは4回目、そしてふたり静に泊まるのは3回目。なんともふたり静に泊まるために鹿児島に来ているような状態になっている笑。3回目ともなると気持ちに余裕でてくるようで、「全部の風呂入ったかな!?」なんて貧乏根性の出番はやってこない。代わりにチェックインからのここでの時間を思い出していた。
竹林の結界をくぐると、昔話のような母屋。その奥には豊かな木々の中に離れがぽつんぽつんと5棟ある。いずれも生粋の古民家というわけではないようだが、古い木材を再利用した部分も多く、人が今よりももっとのんびりと過ごしていたであろう時の気分に浸れる。蚊取り線香の匂いを感じながら夕暮れをここで過ごすのが特に好きだ。
離れではいつでも数歩で温泉に入れる。待つ必要などない。だれかに遠慮する必要もない。思ったら、もう湯の中だ。旅館に来ている感覚とはまったく違い、住人のような気分で過ごしている。
温泉で緩みきった心を見透かしたように、夕餉のときが訪れる。
大振りで艶やかな皿に、埋もれることなくくっきりと浮かび上がる手長海老、帆立、烏賊たち。口の中に鮮やかな色彩が広がる。華やいだ気分。もうはじめっから橋本シェフの料理に心を奪われてします。
竹林を背負った一角で、五感をふるわせるフレンチをいただきながら、自分はいまどこにいるのか、別世界にいる気分だった。
夢から覚めていただく朝食は、ほっこり日本の朝ごはん。
あと数時間でここを旅立たなければならないのかと、ちょっぴりさみしい気持ちは里ごころ。
また結界の奥を垣間見るとき、懐かしさとともにこの茶香の匂いをかぐのだろうな。
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霧島温泉郷 ふたり静 宿泊レポ ←いまここ
先日「水の音」に再訪してきました!以前はこのレポにある通り洗面所とトイレが一体だったのですがその後改装されたようで、トイレが専用の仕切りになってました。ぼくは前のままでも古民家のゆるさがあってよかったのですが、女性には受けがよくなかったのかもしれませんね。いずれにしても進化おめでとうございます。