松島 五大堂
「やっぱり、松島寄っとくか。」
ということになった。
山の湯に泊まりに行くにしても、ちょっとにぎやかなところに立ち寄ってみたいもの。
そんなわけで石巻への途中に、松島へちょっと寄り道。
3.11を経験した松島も、表向き賑わいを取り戻しているようだ。
今回の旅は、石巻の峠の一軒宿「追分温泉」。
種プロジェクトで追分温泉のサポーターになっていて、その前払いチケットを使って泊まりに行くのだ。
日帰りでは何度か来ているが、泊まりは何年ぶりだろう。
石巻へ移動して、まずは昼食。
「かき小屋渡波」という牡蠣小屋で牡蠣を食うことにした(ブログ記事)。
三陸の牡蠣は津波により壊滅的な被害を受けたが、その復興には広島からも牡蠣養殖の支援があったとFB友達のMさんが教えてくれた。
また、カメラ仲間のYさんが無類の牡蠣が好きで、「牡蠣は山で育つ」という言葉を教えてくれた。
海にプランクトンがよく育つためには川が必要、いかに川からの良質なミネラルが海に流れ込むか、これがキモだと。
三陸の海というのはそういう条件に合ったとこなのだろう。
箸にズンと手ごたえのあるジューシーな果実を口にほおり込む。
はふはふ。
海水とミルクを合わせたような汁が口の中を満たした。
ホテテも焼けてきた。
この黒い部分、普段はグロくて遠慮したい部分なのだが、
なんだなんだ、この黒い部分めちゃうまいぞ
なんというか、アワビの肝を食べたときを思い出した。
追分温泉の前にこんなに腹いっぱいになって大丈夫か?
と腹をさすりながらいざ追分温泉へ。
北上川を河口に向かって車を走らせる。
右手には茅葺屋根の材料に使われる葦(よし)の群生。
日差しはすこし傾いてきて、広く青い河口にびっしりと葦が黄金色にゆれている。
もともとはのどかな土地なのだが、訪れたときは護岸工事をしているらしく大型トラックの通行がやたら多い。
気分が落ち着かない上に、葦の群生の風景を撮ろうと思ったが車を停めれるような場所もない。
3.11。この川にも津波が流れ込んだ。
その海水がまじったことで葦は枯れ、立ち直れるか心配されるほどの被害だったと聞いたことがある。
葦の群生の光景は脳みそに焼き付けることにした。
到着が遅くなってしまった。
北上川から追分温泉までは実はそんなに遠くない。
日中ならば、あっけなく着いた、という印象になるだろう。
ところが日が落ちると、外灯はまったくない道を進み、「この道で合ってるんだっけ」と心細い気持ちに襲われる。
細い山道をいくつか曲がると不意にぼんやりとした灯りが見え、安堵した気持ちになった。
峠の一軒宿。
背後にイヌワシが生息する山を背負っている。
昔の木造の校舎おような建物がノスタルジックな世界に引きずり込む。
木枠の戸を開けると、帳場のおばあちゃんは電話で話中だ。
ぼくらの到着に気づいていないはずもないと思うが、あわてる様子もなく、地元言葉でしばらく話し込んでいる。
待つことにした。
待つことで、体内時計をこの峠に合わせる事にした。
裸電球に照らされた温かみのある部屋。
布団は到着時から部屋の隅にたたんであって、気が向いたらいつでも横になれるというのがありがたい。
ともあれ、お風呂へ急行だ。
渡り廊下が好きなのはぼくだけなのだろうか。
タオルを引っ掛け、廊下を軋ませる。
この先に木造の風呂が待っている、そんな期待感。
榧(かや)という木で作られた風呂場は木風呂好きの自分にはたまらない。
裸電球がひとつぶら下がるほの暗い風呂場に、湯気が容赦なく立ち込めている。
先客は2?3人。
冬場の平日ともなればさすがにお風呂はすいている(忘年会とかがなければの話だが)。
木の床に一歩足を踏出す。足裏が喜びだす。
片足から湯に体を沈めていく。
尻に当る木の感触がなんとも心地いい。
お湯は鉱泉なので加温してある。ちゃんと調べたわけじゃないけど、追分温泉はラジウム泉らしい。
日帰り利用のお客さんも多く利用する。なにしろこの風呂の風情だ。人気はある。
でもそのせいかカルキ臭がちょっとある。そして温度は高めに感じる。
ラジウム泉の場合、温度が高いと成分が早々に飛んでしまうはず。泉質がどうだ、源泉かけ流しが・・・みたいな話になると追分温泉は少々分が悪いはずだ。しかし、もともと湯治場として愛されてきた湯なのだから、お湯に関してはもっと魅力的な展開も有るはずだと思う。
宝巌堂のある栃尾又温泉がすこしでも参考になればいいのだがと思う。
追分温泉が好きなゆえに、話がすこし行き過ぎた。
ともあれ、じんわりと温まった。
瓶コーラがわれわれを喜悦させた。
天井は先ほど北上川河口で見てきた葦(よし)が張り巡らされている。
さてそろそろ料理の時間。