創業当初は地名から「まぎの湯小屋」として親しまれてきたこの宿は車通りのほとんど無い静かな道路からさらに小道へそれると姿を現す。玄関口となる大 正時代末期の木造建築は端整な立ち姿を見せる。吊橋と水車がお出迎えする故郷のような風景。
ロビーの奥では囲炉裏で沸かした源泉がいただける。強食塩泉というが食塩水を沸かしたのとは全く違い、常連さんの言葉を借りて言えば”昆布茶のような 味”。まあるい味がして、するするとのどの奥にすべっていく。胃腸によく二日酔いにも効くそうだ。
湯につかった時の印象はというと、これが飲んだ時の印象と全く一緒で、意外なほどはだ触りがやさしくマイルド。強食塩泉だからピリピリした感じがする のかなという予想は見事に外れた。
写真の露天風呂は男湯で、男女ともほぼ同様のお風呂だが男湯は竹囲いが無く、目の前は川なので開放的。
マタタビ酒、いかり草酒、山桃酒、あんにんご酒をブレンドした食前酒にはじまり、一品一品をじっくり味わう価値のある皿がならびます。料理は部屋出し が基本で、食べごろを逃さないように順々に料理が運ばれてきます。
天然水が全ての料理のベースにあるという料理。ここの山菜料理は民家で食されるいわゆる田舎料理ではなく、この地で長年受け継がれてきた味付けに板前 さんが独自の洗練を加えたもので、盛り付けにも気遣いを感じます。
私が通されたのは、料亭として使用されていた緑風館。大正末期の木造建築だ。木造の和室には空気の柔らかさがある。障子にも優雅な細工がしてあり、往 年の粋が偲ばれる。窓からは吊橋の風景。バス・トイレは部屋にないが清潔この上ないトイレがすぐ近くにあるので不便はない。
今年は雪が少なかったが、それでも吊り橋のかかる宿の周りには雪が積もっていて、かまくらのつくられた雪深い山里を感じてきました。
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私が行った後に貸切の露天風呂ができたのですね!二つあるか仕切りのうちのこちらが「石湯」。内湯と露天がセットになった貸切風呂です。(写真は嵐渓 荘より提供いただきました)
もうひとつの貸切風呂が「深湯」です。こちらにも内湯があり、どちらも約130センチの深さがあるそうです。
とりわけ料理には大変満足でした。
部屋出しが基本で、しかも食べごろを逃さないように順々に料理が運ばれてきます。普段は牛肉石焼などの引立て役にあまん じる山菜料理ですが、私を虜にした「ワラビのおひたし」は、一噛みすると”シャキッ”二噛みすると”トロリ”。うーんと唸った後、お代わりをしたくなって しまいました。隠れたメインディッシュかと思う存在感。これは嬉しい発見。朝食も他の宿では「頭数合わせ」を感じることが多い中、こちらの朝食はじっくり と味あわせていただきました。これもおいしい水と温泉のお蔭です。普段の朝食は食パン一斤で済ませてしまう私が、あっというまに朝食を平らげてしまいまし た。
宿泊の棟は3つ有り、玄関口となるレトロな本館が緑風荘、バス・トイレ付きで快適さを重視するなら近代的な渓流荘、山の風情を求めるなら渡り廊下の先に ある木造の建物がりんどう館といった感じに、気分や目的で選択できる。 嵐渓荘は、静かさを売りにした最近人気の二人旅専用の隠れ宿ではない。いや、環境としては守門川のほとりに佇む山に囲まれた一軒宿で、静かさといえばこ の上ない。全国的に見れば、ここは長い間”知る人ぞ知る”宿で、どちらかというと、地元の方に親しまれてきた。今でも館内では地元言葉で賑っている。ロ ビーに出ると、”もう何十年もここに通ってる”という方が、私のような県外者の匂いを感じとって気軽に話し掛けてきてくれた。どことなく湯治場の雰囲気と いえばいいだろうか。そんな気取らない一軒宿だから、普段着でやってきて、気づいたらここが自分の第二の故郷のように思ってる、それが嵐渓荘の魅力なのか も。