山梨県 船山温泉
宿泊日 2006年10月
お部屋 和室タイプC

 

 

民家も見えなくなった細い道を小川にそって登って行くと山の中から姿を現す。野鳥が囀るのどかな一見宿だ。

 

一見無骨な木の扉が開くと、一面に畳の敷詰められたロビーにはやさしい空気が漂っている。それは足の裏から伝わる畳の感触の所為か、たっぷり注ぎ込む日の光の所為か、それとも撫でたくなるような椅子の曲線の所為だろうか・・・。

 

窓を開けると周囲の山々から鳥が囀りが聞こえてくるのどかな雰囲気。チェックイン開始の13:00ちょうどに宿に入り、「貸切風呂一番乗り」と意気込んでいで連れを見やると、あろうことか部屋に備え付けのマッサージチェアーでトランスモードに突入している。

 

貸切露天「二人静」。コンクリ打ちっぱなしのモダンなデザインの洗い場は室内に。木でできた湯船は露天になっている。体を洗うときに寒くないようにと考えられた仕組みだ。

 

内湯、露天風呂、貸切風呂を合わせて6つのお風呂。客室数12室に対してかなり多彩といえる。特に夕刻ともなるとライトアップされた木々が幻想的。バスタオル類は脱衣所に用意されていているので、お風呂へはタオル一本で行けるのもうれしい。写真は大浴場「渓流の湯」。

 

露天風呂に出ると堤から川が段々に落ちて水しぶきを上げる。それを隠すようにライトアップされた木々の緑がワーッと覆いかぶさる。写真は「渓流の湯」の露天風呂

 

自家製の梅酒にはじまり、新鮮な山の幸を材料とするこの土地ならではの手作り料理が並ぶ。食後のデザートまで一品一品が丁寧に作られていて、盛り付けも器粋。山の味を楽しく味合わせてくれる。

 

岩魚の造りはみずみずしさを失わないように氷にのせあれてあります。仕事が丁寧ですし、なにより見た目もきれいですね。生わさびをすってわさび醤油で食べるのもいいんですが、岩塩で食べると、これがい旨いんです!生魚のにがてな連れが、「おいしい!」といってパクつくのには驚き。

 

旅館にシャンパンが置いてあるなんて珍しいでしょ。ついその気になってモエ・エ・シャンドンを注文。岩魚の塩焼き、甲州ワインビーフのステーキ、舞茸の釜飯にデザート。洒落た雰囲気で、おいしくいただきました。

 

散歩したり、DVDをみたり、本を読んだりなど、日常からはなれたここで過す時間はたのしい。周囲の自然を五感で感じる山の中の一軒宿。全館畳張りのぬくもりと多彩なお風呂に演出の妙を感じる新しい感覚の宿。ここは山里のリズムで過す和風プライベートリゾート。

 

 

一軒宿。それは独占欲を満たす空間。船山温泉。首都圏から近く、富士五湖からも近く、それなのに未開の地。全国的には、まだ知名度のないこの宿なのに、泊まった人が口々に“とても気に入った”という。それは若いご主人の志の高さ、客を迎える若女将の初々しさのなせる業かもしれない。宿を感動的な空間に昇華させようと、ストイックなまでの志で宿の舵を取る若き主。それと対照的に、そのかわいらしい笑顔を見ただけでついつい心和む若女将。この二人の若々しさは、もぎたてフルーツのようなエッセンスを宿に振りかけている。今までの“旅館”のイメージを土台に持たず、新しい感覚の宿。ここに来ると、自分にとっての大切な宿というのは有名、無名にかかわらず、ひっそりとあるのかもしれないと感じさせられる。いや、もしかしたらこの宿のブレイク寸前のとても重要な瞬間を目の当たりにしているのかもしれない。「感動してもらうことが目標です」と語るご主人。“満足”ではなくあえて“感動”という言葉を使ったご主人の意気込みが偉い。1年365日変わらない宿泊料金、13:00チェックインなど、システム面での斬新さもさることながら、館内にいるだけで今までの温泉宿にはない新しさ、快適さには感心する。全館畳張りの館内を素足で歩かせるには、どれほど清掃に気を使うことか。アメニティー類も充実でお風呂の化粧台などはシティホテルのそれのよう。お客さんの声にじっくり耳を傾け、合理性を取り入れたこれまでの旅館のイメージを覆す新しいスタイルの宿。ではホテル的なのか?ここは客室わずか12室、自然を身近に感じる2階建ての宿。先代自ら愛着を持って庭木を手入れしていたり、山へ野草や山菜を獲りにいく若女将のその一生懸命さを感じた時、この宿がいっそう好きになってくる。不便さも一興としなければ過ごせないような、山奥の宿とは180度ベクトルの違う、しかし自然を五感で感じ山里のリズムで過ごす。ここは和のプライベートリゾート。

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