北アルプスの山懐に抱かれた地、安曇野。美術館や工房が点在する観光地であるが、今も日本の原風景をとどめている。お宿なごみ野は、山麓線沿いの雑木林にひっそりと在る。その佇まいは、どことなく蔵を思わせる。

 

設計は安曇野在住の建築家、萬羽増雄氏が手がけた。敷地の特徴や自然の樹木を活かして設計され、建築自体も自然に同化しているかのようだ

 

ラウンジの外壁、ロビーのステンドグラス、通路のレリーフ硝子など随所に卓越したセンスが光る。

 

内装も木の温もりが感じられ、ラウンジや湯上りのお休み処には地元デザイナーの木の家具が配されている。

 

女性好みの洋室、落ち着ける和室、15部屋ある客室はすべて違う造りになっている。客室に入ると、まず天井の太い梁に目を奪われる

 

全ての部屋から中庭の木々が眺められる。窓辺のコーナーにも木の家具。、図書コーナーで本を借りて読書しようか、鳥と風の唄に耳をすましてぼーっとするひと時もいい。

 

温泉は穂高温泉よりの引湯。大きな窓のある内湯。露天風呂は内湯と別の場所にある。森林浴と湯浴みが同時に楽しめる。写真左は女湯の露天風呂。岩を配した無料の貸切露天風呂(写真右)もある。

 

料理は選択自由だが、宿の自慢でもあるのでぜひ味わってみることをお勧めする。日替わりの夕食は月変わりの創作懐石料理。料理長の研究熱心さが伝わってくる。

 

前菜からデザートまで季節感に溢れた料理が続く

 

朝夕の食事は2004年4月オープンの食事処で。茶室風の食事処は秘密の小部屋のような雰囲気。やはり中庭を眺めながら食事が楽しめる。朝食後には無料の珈琲サービスがある。

 

 

その日はあいにくの空模様、楽しみにしていた北アルプスの姿も厚い雲に阻まれて見ることが出来なかった。傘を忘れ、びしょぬれでたどり着いた宿、雨で冷え た体を温泉で暖めると、五感が蘇っていくようだった。 木々の香りを吸いながら、ずいぶん長いこと露天に入っていた。 交通手段のない昔の人たちは、きっと大変な思いで旅路を過ごしたのだろうな、宿に着いた時は、きっと救われたような思いがしたに違いないなどと想像しなが ら。……旅から戻り、いつもの生活に戻っても、気がつくと安曇野のことを考えていた。 翌月、私はまたあずさに乗っていた。ときめくような思いで。今日こそ、常念岳は横通岳は、その姿を見せてくれるのだろうか。宿は前と変わりなく、そこに在 り、私を迎えてくれるだろうか。私はおかしい。どうかしてしまったようだ。この思いは何だろう。 旅行好きのオーナーが安曇野という土地にめぐり逢って開業したという「なごみ野」。 旅人に何が必要なのか知り抜いている人が建てた宿だと思う。華美なインテリアも凄い設備もない。その代わり、自然との融合を第一に設計された宿。ラウン ジ、食事処、部屋、風呂、どこからでも自然の木立を眺めることが出来る。そこに居るだけで癒され、その空気の中にずっと居られたらと思う。 安曇野を愛するオーナーと建築家が創り上げた理想郷は、安曇野に恋した旅人にとっては特別な場所となる。心に響く何かがあるとすれば、そこに共鳴するもの を感じたからなのだろう。

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