椿温泉は、紀州白浜温泉から南紀の海を見ながらさらに南に車を走らせた所にある。「紀伊風土記」にも記述がある古くからの湯治場で、一時リゾート化の道をたどったが今はひっそりとした温泉街。その中に、ふと目をひく不思議なあずき色の建物がある。
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エントランスに入ると、静かな音楽が流れている。小石が敷き詰められた珍しい床。高い天井には縦横に交差する梁。そこからすうっと、白熱灯がいくつか吊り下げられてある。案内にしたがい、南紀のうららかな陽光以外何もない(他に何も必要ない)中庭を見ながら宿泊棟へ向かう。
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客室に通された。「おおおっ!」と思わず声をあげる。客室の窓全面に、海が見える。・・・海だけがある!客室までのアプローチでは海への視界が遮られており、ここが海岸沿いの宿であることを忘れてしまう。そして客室の扉を開いたとたん、目前に急に広がる海の青!
こじんまりした風呂だが落ち着いくのでゆっくり湯船につかると、椿の湯の適温とぬめり具合が心地よい。そのままふぅーっと天井を見上げると、木の国紀州のすばらしいヒノキの無垢板。
デッキに出て一服。無造作に植えられている緑のことを尋ねると、なんと植え込みでなくて自生している椿だとのこと。
海の青に対してなぜ建物を薄いあずき色にしたのだろう―――後から知ったのだが、椿の色がイメージされているらしい。なるほど、それで不思議と違和感がなかったのか。建築家・竹原義二氏設計の「海椿葉山」は、2000年のグッドデザイン賞に輝いた。
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オーナーが作っているらしい料理は、上品でありまた家庭的でもあり、とてもおいしかった。 8.横に細長い窓から南紀の陽光がさしこむサロン。椿温泉の名のとおり周辺に自生している椿の花がいけられている。一日中読書でもしていたいサロンである。
南紀の日差しが落ち着いて夕やみが迫る頃、かわりにサロンのあかりがやさしく語りかけます。
海椿葉山の最大の売りは、宿のしおりにもあるとおり、椿温泉の地にもともとあったもの、それは海であり、温泉であり、木の香りである。この宿は、そんな特別珍しいものではないかもしれないものを、いかに魅せるか、味わわせるかが考え尽くされている。しかしその趣向におしつけや気負いは感じられず、建築家の建物にしても、オーナーの接客態度にしても、風呂のこじんまりした様子、何もない中庭、部屋数6室という静けさ、どれをとっても穏やかな統一感があって、とても心安らかなひとときを過ごせる。そして不思議なことに、実は私は建築家の建物だけに興味をもっていたはずだったのに、後になってこの宿の印象として思い出すのは、南紀の暖かな陽光であり、デッキから眺めた海であり、木の香りや穏やかな空気なのである。そう、つまりこの地にもともとあったものが、なぜか、やはり一番心に残るようになっているのだ。。。これからの日本の宿のあり方に、ひとつの理想的な方向が示されたような気がする宿であった。
早朝、起きて窓の外を見て再び「おおおっ!」と声をあげる。こんな美しいブルーのグラデーションが生で見られるなんて。。。