一日二組の古民家料理宿 大鹿村「旅舎 右馬允(うまのじょう)」
長野県大鹿村は中央道松川ICから南に約30分、南アルプスの山ふところに位置する村落です。
南北朝時代(1,300年代)には一時南朝の拠点になったという歴史ある村で、原田芳雄の遺作映画「大鹿村騒動記」でその名を知られるようになった郷土芸能「大鹿歌舞伎」は現在も毎年上演され続けています。また村内に湧出する「鹿塩温泉」は深山の強塩泉で製塩も行われています。
「日本で最も美しい村連合」所属。
ここにご紹介する「旅舎 右馬允(うまのじょう)」は村の高台に位置する古民家で、一日二組限定という贅沢な料理宿。 大鹿村の食材(山菜・木の子・川魚・ジビエなど)を自在に調理して提供してくれます。
近江「徳山酢(とくやまずし)」、「比良(ひら)山荘」などとともに食道楽垂涎の宿として一部好事家の間ではその名を知られています。
宿は古民家をそのまま利用したもので、本屋(ほんおく)のほか庭の土蔵やお稲荷さんも鄙びた風情に趣を添えています。
部屋は濡れ縁のある一階二間と新緑が眩しい二階三間がありますが、今回は私たちひと組だけの宿泊なので、「全てのお部屋をお好きに使ってください」とのこと。
建物は古いものの風呂・トイレはリフォームされて快適な空間になっており、館内は清掃が行き届いて実に気持ちが良い。
歴史を感じさせる古民家泊を満喫させていただきました。
風呂は残念ながら温泉ではありませんが、大鹿村の山水を薪(まき)で沸かした肌触りの柔らかいお湯です。
新緑の庭や土蔵を眺めながら入浴していると時を忘れてしまいそう。
どうしても温泉に入りたいという向きには、近くに後ほどご紹介する小渋温泉「赤石荘」の素晴らしい露天風呂や、前述した深山の強塩泉「鹿塩温泉」の立ち寄りを利用できます。
そしていよいよ食事処でいただく深山会席料理です。
地酒「今錦純米酒」も美味しく、魚の骨一つ残さず堪能させて頂きました。
大きなテーブルは実際に使用されていたという門扉を活用したものだそうです。
翌日は朝から雨になりましたが、濡れ縁のある部屋はまたこれでなかなかの風情です。
ゆっくりと朝食をいただき、雨音を聞きながら深山の景色を満喫して宿を後にしました。
冬には大鹿産ジビエ料理が供されるので、また来なくては。
大鹿村に来ると必ず立ち寄る小渋温泉「赤石荘」の絶景露天風呂も是非!
「赤石荘」は「右馬允」から車で10分ほどの至近です。
泉質はナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉(アルカリ性低張性冷鉱泉)13.9度. PH 8.55、加熱循環プラス放流。入浴料500円、もちろん宿泊もできます。
「赤石荘」の道中にある隠れ里、南朝の香りを現代に伝える和蔵(わぞ)集落と長野県最古の木造建築とされる鎌倉初期の「福徳寺」。
深山に強塩泉が湧出する鹿塩温泉も魅力的です。
宿は現在二軒のみになってしましましたが、併せて宿泊・立ち寄りすれば一層充実した鹿塩村訪問になるかと思います。「山塩館」(入浴料800円)は比較的設備の整った、「塩湯荘」」(入浴料600円)は鄙びた味のある旅館です。どちらも鹿塩特有の強塩泉と地の食材を使った料理が味わえます。
泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物冷鉱泉 14度、PH7.4、加熱循環。「山塩館」には源泉槽もあります。
「旅舎 右馬允」と大鹿村の旅は如何でしたか?
地味な観光地ですが、その分豊かな自然や昔ながらの風俗を実感できると思います。
ただ一つ大鹿村には懸念材料があります。
リニア新幹線工事による環境破壊がそれで、通気口、非常坑口工事や残土輸送トラックの通行(年と1日最大1,700往復!)などでこちらが沿線最大の被害をこうむるということ。
「東京ー大阪が一時間で結ばれる」ことと引き換えに、多くの自然環境が破壊されることも我々は知るべきかと思います。