塔ノ沢温泉「元湯 環翠楼」は慶長19年(1614)創業、400年以上の歴史を誇る老舗です。
湯元から強羅方面に向かって旧函嶺洞門を過ぎたあたり、早川を渡ると左側に見える木造の旅館は記憶にある方も多いでしょう。
文末に当館の略史をメモしたので興味のある方はどうぞ。
宿は早川に沿った木造四階建て(道路に面しているのは二階部分)で部屋数は全22室。うち離れ一室を含む14室が渓流に面しており、いずれも大正期改修当時の面影を残しています。
早川沿いの宿
大正期の面影そのままに
ロビー
帳場
宿泊したのは「湯坂」と称する一階部分の早川に面したお部屋。踏み込み三畳・本間十六畳・広縁二畳半の広々としたもので、広縁からは川沿いの専用遊歩道に出ることができます。
部屋「湯坂」1
部屋「湯坂」2
部屋「湯坂」広縁
部屋の外には宿専用の遊歩道が
早川の清流
到着時の茶菓(蕨餅)
風呂はまず一階にある「大正風呂」と呼ばれるステンドグラスとモザイクタイルを使用した岩風呂で、大正期の風情が味わえます。源泉に一番近い湯船であり、男女別で時間交代制。
大正風呂
三階には「末広の湯」は貸し切り専用。無料でいつでも利用可能です。
但し三階でも眺望はありません。
そして早川沿いの高台には男女別の露天風呂があり、午後10時から翌4時までは貸切(無料)で利用できます。
いずれも終日入用可能です。
泉質はアルカリ性単純温泉30℃、45℃、58℃の3本を混合、PH8.9、湧出量毎分60リットル。
露天風呂への路
露天風呂湯小屋
男性用露天風呂1
男性用露天風呂2
男性用露天風呂からの眺め
女用露天風呂
湯上り休み処
食事は完全部屋食です。
京懐石ではありませんが、細やかな細工をされた繊細な料理が一品々々運ばれてくる懐石風コース。
特に際立った献立ではありませんが、どれも季節感たっぷりの水準以上の料理で安心していただけけます。
地酒の「箱根山」も相性がよく盃を重ねました。
先付け:安肝豆腐・白木くらげ・ミニチンゲン采・ポン酢ゼリー
前菜:春菊浸し・焼き栗・子持ち鮎甘露煮
・姫慈姑(くわい)から揚げ・蛸南蛮漬け・川海老から揚げ
造り:本鮪・真鯛・墨烏賊・妻一式
吸物:すっぽん白玉・椎茸・順菜
焼物:鰤杉板焼き・えりんぎ・タマネギ・丸十レモン煮・揚銀杏
皿物::一口ステーキ・ズッキーニ
煮物:鏑旨煮・湯葉・揚牡蠣・紅葉人参・つる菜・銀餡
揚物:蟹とび子進上・筍・青唐
酢物:秋鮭南蛮漬け・玉葱・大徳寺麩・いくら・いかり防風
止椀・御飯・香の物
水菓子:洋梨・キウイ・ミント
食後は館内散策に。
往時の面影を残す造作、意匠、建具などがそこかしこに見られます。
また四階には三つの大広間があり、それぞれ神代杉を使用。襖や欄干などその意匠も当時の様子を伝える貴重なものです。
レトロな洗面台とステンドグラス
休憩室
当館にて身罷られた静寛院宮 和宮様(徳川十四代将軍・家茂正室)の資料
館内の屏風絵と掛け軸など
大型金庫
階段
階段と歌舞伎絵
大広間「蓬仙閣」
大広間「万象閣」
大広間「神代閣」
大広間「蓬仙閣」から早川を望む
窓から見た紅葉
朝食は定番メニューながら、山葵漬け・蒲鉾・干物・味噌など全て地元老舗の提供する食材が使われています。
朝食膳
良質の温泉と歴史の重みたっぷりの佇まい、美味な料理と老舗ならではの接待に心癒される宿泊でした。
*「元湯 環翠楼」略史
慶長19年(1614):箱根塔ノ沢に湯治場として開湯する。当時の名は「元湯」
明治10年(1877):静寛院宮 和宮様(徳川十四代将軍・家茂正室)が病気療養のため環翠楼へ登楼、同年当館にて身罷られる
明治13年(1880):篤姫が和宮終焉の地となった環翠楼に行きたいと登楼。
明治17年(1884):環翠楼改装工事。このときの名は「元湯鈴木」
明治23年(1890):伊藤博文が来館して「元湯 環翠楼」を命名、
明治44年(1911):中国の革命家、孫文翁が中国より日本へ亡命。環翠楼を定宿とする
大正8年(1919):改修して現在の姿に、同年箱根登山鉄道開通
昭和30年(1955):秩父宮様、高松宮様登楼。その後定宿とされる
他にも水戸光圀、東郷平八郎、夏目漱石、菊池寛など多くの著名人が投宿しています