静岡 吉奈温泉 芳泉荘
お部屋 「はぎ」

 

 

この橋の先にはいつも別世界がありました。昭和よりもっと前の、つくりものではないレトロな世界がありました。

 

あまり写真は撮らなかったので、これは前回宿泊時の写真。

 

毎度ど迫力の大皿の造り。手長海老、金目鯛、伊勢海老、そして私の好きなカワハギは肝醤油で。これが旨いんです。

 

芳泉荘ではすっかりおなじみの伊勢海老の天ぷら。

 

こちらもおなじみのステーキ。上にのっているものがホタテだったりキャビアだったりとその時々で変わるようですが、今回はフォアグラでした。和風醤油にわさびで。旨かった!

 

締めくくりは釜飯です。おこげも美味しい。

 


最後の宿泊は初めて泊まる「はぎ」。そろそろ寝ようかと寝室には入ると小さなすりガラスの外に点のような明かり。季節を外れた蛍が一匹、暗がりに明かりを灯してくれたのだ。「カメラ、カメラ!」と小さなこえで叫びながら、急いだがはたしてうまく撮れていなかった。

 

「はぎ」のお部屋の露天風呂。目の前を小川が流れています。朝からここに入り浸り。

 

風呂上り、ここでの思い出が体に染みこんでいけばいいなと思いながら、川の風で体を冷ましながらここにしばらく寝そべった。

 

 

 

おそらく湿っぽいレポートになってしまうでしょう。ご容赦を。

“>この日は最後の芳泉荘だというのに、じつはあまり写真を撮りませんでした。行く前からそう決めていました。心に深く深く芳泉荘を染みこませようと思ったのです。
「そんな日が来るなんて」、とはまったく別れ話の歌みたいだけど、 ある日、芳泉荘のご主人から一通のメールが送られてきた。 あとから知ったのですが、それはリピーターの何人かに送られたメールだったらしい。 急遽7月の初旬に芳泉荘とのお別れの宿泊へと旅立ったのでした。
レポートは私が書くものの、宿を選ぶほうは連れが実権を握っている。 その連れが一時「伊豆で一番泊まってみたい宿」だったのがこの芳泉荘だったのでした。 訪れる以前は伊豆の宿ということもあり洗練された、レトロ感を上手に演出した宿なんだろうと思っていたが、訪れて見るとホントに鄙びた離れの宿でした。当初想像していた宿とはちょっと違ったんだけども、それがなぜだが私たちの心をとらえてしまいました。
今回の宿泊は「はぎ」。「ぼたん」にはついぞ泊まれなかった。はぎはさくらより小ぢんまりと、レトロ感むんむんの居間があり、次の間がある。 貸切風呂へ入ろうと母屋へ向かうと、そこは以前よりも片付いていて、なんとなく引越しの準備をしている寂しさがあった。 風呂の戸を開けると、ありました。レトロなタイルのおふろ。これを高山さんが丹精込めて磨きこんであるのが魅力的でした。お風呂の清潔感はやはり、全盛のころから比べると緊張感が途切れた感は否めなかった。じつは料理の前菜も同様。でもいいんです、そんなこと。

夜の間は雨が降っていた。長い間、部屋の露天風呂につかり、ベンチに座って川の風で冷ますを繰り返した。ちょうどサウナで熱いのを我慢して、冷水に飛び込むのを繰り返すようなもの。 そろそろ寝ようかと寝室に入ると、小さなすりガラスの窓の外の暗がりに一匹ほたるが灯かりを灯してくれた。「カメラ、カメラ!」と小さなこえで叫びながら、はたしてうまく写真に撮れただろうか・・・。がっかり。なぜか撮れていなかった。記憶にとどめることにします。

チェックアウトした後、すこしお話をさせてもらった。高山さんの目から涙があふれてきて、たまらず私も連れも・・・。 自分たちの共通した芳泉荘の印象は「サービス精神のかたまり」だった。それはご主人の高山さん夫妻の人柄がダイレクトに表れた宿だった。企業ではなく家業。 この料金をとる宿の中では決して洗練もされていなかったし、宿のトレンドにのっている宿でもありませんでした。でもなぜか好きにならずにはいられない温もりがありました。
「本館玄関で80年の時を刻んで居ました古時計が昨年の秋に停止致しました。」 まるでそれが予告であったかのように、芳泉荘は2010年7月末をもって、その歴史に幕を下ろしました。 高山ご夫妻が(もしかして娘さんも?)涙、涙・・・で最後のお客さんをお送りしている姿が思い浮かびます。 たくさんの人たちの思い出がこの宿に保管されていました。人々は自分の思い出に会いに芳泉荘を訪れ、また新しい思い出も一緒に保管して日常へ帰っていく。そういう宿でした。 故郷みたいな宿でした。 私たちの、そしてたくさんの人々の思い出が詰まっているあの宿が、もう記憶の中だけにしか存在しなくなると思うとやはり感傷的になる。 そんな気持ちにさせる宿、日本にいったいどれだけ残っているのだろうか。 かけがえのない思い出をありがとうございました!!

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