夕食の余韻を引き摺りたくて、カフェへいってみることにした。
連れは観たいテレビがあるので部屋に残った。

 

カフェへ向かう通路は夜になるとなおさら幻想的。

 

他のお客さんも風呂にいったり部屋から出るのが面倒になるのか、カフェには僕一人。
おかげで山奥に居るような静けさだ。

 

カプチーノを飲みながら、自分はこの時間を、心をゆったりとした流れに任せる時間が欲しくてこの旅に出たんだなと気づく。

 

いかにも天然素材の上質な肌触りの寝具。マットレスも程よい硬さで体が沈むにつれてしっかり体を支えてくれる。

連れは「布団もまくらもきもちい~」と言いながら寝ていった。

 

自然に目が覚めて朝風呂へ

自分の体内にある液体に浸かってるように肌になじみ、トロトロと滑らかだ。指の間の古い角質が柔らかくなって溶け始めてくるのがわかる。
伊豆石なのか十和田石なのかたぶんどちらかだろう。細かいざらざらした肌触りが心地いい。

 

木々のほうで何かが動いた。鳥かなと思って見ると、スルスルと木を登ったように見えた。自分は目が悪いので確かなことはいえないが、リスだったんじゃないかと思う。おとぎの国のキャストだね。

 

シャンプー類も気合が入ってるみたいで、スペインのオーガニックシャンプーや
フランスのYON-KAの化粧水、フェイスクリーム、クレンジングなどなど。

 

朝食も前夜と同じ個室で。外に山茶花が咲いている。

 

郡山の酒蔵、仁井田本家でつくったマイグルトという、お米からつくったヨーグルトみたいな甘酒。一口目をそのまま。つづいてオレンジを絞って、と教わる。

 

かぼちゃと小豆を煮たものこれを「いとこ煮」といういのだとはじめて知った。
普段なら「御飯がすすむ!」というのが褒め言葉なのだが、このの料理はどれもやさしい味でごはんをあまり必要としない。

 

この食事の肝は野菜なのだ。自然栽培の野菜なのだ。

そしてサラダの味付けもこんなにたくさんのものが用意される。写真12時の場所から、オリーブオイル、ニンジンドレッシング、柚子胡椒、ブラックペッパー、塩、

 

 

 

温泉たまご。本当に温泉の入った器にぷかぷか浸かった状態で供された。

 

朝は部屋の檜風呂だ。チェックアウトが11:00なので、ゆっくり入れそうだ。

 

この檜風呂は心底気に入った。

チェックインしたときから常に源泉の湯がオーバーフローしていて、部屋にいるとその音に幸せに感じる。いつでも入れるからとついに昨日は入ることがなかった。なんと贅沢なことか。木の匂いなのか湯の匂いなのか判らないが、自然界の匂いに包まれてリラックス。
湯船は背中に角度がつけれられててこれがジャストフィット。

 

 

源泉は50度ほどあるのでそのままでは熱いから水を足してもいいのだが、源泉にこだわって出湯の絞る。

 

 

大人のテーマパーク

 

観光地と言うわけではなく、かといって人里はなれた山奥でもなく、民家のあるエリアからそう遠くない田園の一角はすこし高台になっていて、そこが特別な場所。木々に囲まれた一軒宿のようにある。冬枯れた田園風景が不思議に懐かしく、郷愁を誘うのは僕が東北育ちだからだろうか。

初めて米屋を訪れたのは2011年だけど、それ以前は家族だけで営む客室6室ほどの手作り感たっぷりの宿を想像していた。実際には23室だったのだが、そのキャパシティーには不似合いなほどのゆったりとした館内スペースと充実の設備。スモールラグジュアリーな宿だったのだ。

ここは田園の外れの、周囲とはちょっと違う時間が流れる大人のテーマパーク。

 

「明日は化粧しなくていいかも」

温泉は微かな匂い。成分表には無臭となっているが、イオウなのか、アブラ臭と呼ばれる鉱物臭をずっとずっと弱めた匂いなのかよくわからないが、微かなものがたしかにある。
それは森の匂いに草原の匂いを混ぜたようでもある。

寝湯があったので寝てみた。
寝湯は大好きだ。ただゆっくり寝湯できる風呂って多くない。他のお客の存在で落ち着けなかったり、体が浮いてきてしまう造りなど。ここは風呂が人でにぎわう事もないし、寝湯の足元にバスケットボール大の石があり、これを足で挟んでおくとうまい具合に体を固定できる。

ミストが室内を包む。
息を整えていく。
瞑想のような状態に意識を導く。湯のザーッと溢れる音が意識を洗い流していく。
20分後、脳みそは風呂上りのようにすっきりした。

湯上りの連れの顔は明らかにつやつやしていた。
「明日は化粧しなくていいかも」などと上機嫌。

 

見た目も中身も美しく

「半分は農業してるみたい(笑)」と女将さん。
”女将さん”なんて大上段な役職よりも、ホントは”有馬さん”て呼びたくなるお人柄。
話題が自然に食のこと・野菜のことへ。女将さんの頭の中はいま、健康な食のことが大きな関心ごとなのが分かる。

現在の自然栽培の野菜にたどり着くまでにはこういう心の動きが有ったらしい。

あるときから「うしろめたさを無くしていきたい」と思うようになったそうだ。
それは食にかかわればかかわるほど見えてくる不都合な真実。

たとえば、食欲を無理やり増進させる化学調味料や保存期間を無理やり長くしたりのために使われる添加物の類。ぼくらは日常生活でこれらをたくさん摂取している。女将さん自身がこれらに疑問を感じ、自分の食事からそういうものを遠ざけていくと、健康的に体重が7~8Kg減ったそうだ。

この話にはたまらず連れも

”食いついた”

野菜が”花形”の米屋の料理は女将さんのこんな経験がベースになってるんだな。

無農薬にこだわった一般には流通しないものを契約農家から仕入れている。

いよいよ自分たちでも自家菜園をスタート。農薬で土地の力を奪い、肥料で無理やり育てるのではなく、肥料も農薬も一切使用しない、自然栽培。土の微生物の力を借りた有機農法なのだ。
かぼちゃとさつまいもは自分たちで育て、初めて収穫したものだそうだ。

 

 

米屋ではどんな瞬間もいとおしい。

夕食の後、ひとりカフェに来てこれを書いてる。
他のお客さんも風呂にいったり部屋から出るのが面倒になるのか、カフェには僕一人。
おかげで山奥に居るような静けさ。

天井の灯りは闇を照らし出すには不十分な明るさで床に届く。
木々がまばらに立つカフェは、昼間見るといかにもメルヘンチックなかわいらしさだが、この時間になると、夜の湖畔に居るような気分だ。住宅事情のせいで今どきは家庭では見なくなった大きなスピーカーからのバイオリンの音が、かすかに空気を揺らす。絵本の中の深夜に開催される動物たちの音楽会を思い浮かべて遊んでみる。

カプチーノを飲みながら、自分はこの時間を、心をゆったりとした流れに任せる時間が欲しくてこの旅に出たんだなと気づく。

たとえ外が吹雪だったとしても、この空間は暖炉の近くみたいに暖かいんだろうな。

 

 

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