京都 花脊 美山荘
お部屋

 

鞍馬も越え、予想以上に山の中にあるこの宿に到着したときには、既に非日常の空気が流れている。

 

元は宿坊であったという美山荘。そのしっとりとした佇まいは、心穏やかな滞在の前奏。

 

水屋の方たちの手で摘まれた美山の豊かな自然が、よもぎもち、とちもちに姿を変えて、旅の疲れを癒してくれる。

 

この宿には「音のご馳走」と「香りのご馳走」がある。

 

今宵4組のお客さまを迎える離れの玄関をくぐると焚き染められたほのかなお香の香り。廊下はひっそりとして、まるで自分たち以外の泊り客などいないよ うに思える。

 

月見台に出てみると、降りかかって来るのは圧倒的な力強さの緑のシャワー。ひとつ深呼吸。たっぷりとフィトンチッドを吸い込む。「香りのご馳走」。非 日常の空間…連れとの会話がふと途絶えたそのときに部屋に拡がるのは清流のせせらぎ、河鹿の鳴き声。「音のご馳走」にときを忘れる。

 

一組ごとにきちんと清められた、一枚板の槙の香もゆかしき浴室。

 

八寸の朴葉のふたを外すと篭の中に納まるのは・・・片栗に梅肉、川海老の素揚げ、どじょうの南蛮、しし唐の葛寄せ、地鶏卵黄の味噌漬け、白アスパラの 山椒焼、もみじがさのおひたし、わらびの海苔巻き、こんにゃくに栃餅、さらに別皿で絶品の鮎ずし。

 

椀物は鰻と新ショウガの胡麻豆腐。盛り付けや器も洗練されていて、手ざわりを確かめながら味わう。栗の木の小枝を削った縁起のいい箸も粋です。

 

炭火で焼かれた若々しい鮎。花背の里でとれた川魚、山菜、京野菜を質の高い料理にして供する摘草料理は、たちまち味にうるさい輩の舌をうならせ、全 国にその名を轟かせることとなった。この料理を食べたいがために、わざわざ旅に出るという方も少なくないのではないでしょうか。

 

 

「美山荘」を訪れた2003年3月下旬は、まだ道端に雪が残り、市街地から季節が1ヶ月遅れたようです。一年ぶりに宿に到着したところ、美しい若女将が 走ってきて、新しくお部屋がひとつ改装できたばかりとのこと。ぜひ、縁起のいい最初の客として…とまで言われて断る馬鹿はおりません。「美山荘」には離れ と母屋あわせて4組程度の客が泊まれるのですが、以前は川沿いの離れの、一番玄関側の狭いお部屋にだけ月見台がありました。月見台で清流を見ながらワイン というのがとても楽しくて、そのお部屋ばかり指定で泊まっていたのですが、一昨年もう1部屋に月見台を、そして今年は最後に残った川沿いの一番奥の部屋を 改装して月見台も設置したようです。そうして、一番奥の出来立てのお部屋に泊まることとなったこの日…。以前もお伝えしたように、「美山荘」には専用露天 風呂どころか部屋風呂すらありません。その他、箇条書きにしていけば、みかけのハード面では流行を追う宿に劣ることは一目瞭然です。ところが、お風呂から 上がってくれば、ちょうどいい頃合を見計らって冷たい飲み物を届けてくれ、うたた寝をしていたようだと気づけば、さりげなく昼寝掛け布団を用意してくれ る…。そういった何気ない心配りが、この宿の一流たる所以だと思います。それを象徴するのが、今回の、初めて客を受け入れる部屋のエピソードです。という のは、夕食は別の部屋でいただくのですが旅の疲れもあって一泊目、お酒を飲んでいると眠くなってしまいました。それで主人が部屋に戻ろうとしたところ、ど うやら布団を敷いている最中のようです。邪魔をしてはいけないといったん戻ってきて、しばらくしてまた見に行きます。まだ布団を敷いている様子…。あまり に長いので不思議に思い、主人はこっそり覗いてみたそうです。すると、なんと大女将自ら、部屋係りの女性と二人で布団をこっちに敷いてみたり、向きを変え てみたり。どうやら、エアコンの風が直接あたらない位置を探して、何度も何度も布団を敷き直しているらしいのです。戻ってきた主人からこの話を聞いて、 「美山荘」の大女将こそが本物の女将だと、改めて深く感じ入りました。この宿のことは、色々な雑誌で何度も紹介されていますのでご存知のことと思います が、それらの褒め言葉は、決して過ぎたものではありません。取り巻く深い山、清流沿いのお風呂、お料理…。それから丹羽さん、絶世の美女の若女将にも是非 実際にお会いになってみてくださいね。稲 岡 三 生(このレポートはMIUさんがタビエル宛にお送りいただいた私的なメールを元に、後から写真を撮影し てつくりました)

 

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