宿泊日 2002年秋
お部屋

国道387号、町田川沿いに、壁湯温泉の看板を見つけて車をとめます。しかし宿の建物は見えず、代わりに放し飼いのチャボが2?3羽、迎えるとはなしに出迎えてくれます。壁湯という名のとおり切り立った河岸沿いの階段をかなり降りていくと、ようやくそこに、なつかしい風情の旅館福元屋が佇んでいます。

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黒い板張り廊下に引き戸の客室が全8室。田舎に帰ってきたような、あるいは庄屋様のお家にでも泊めてもらったような感覚です。さりげなく野の花、稲穂がかざられていて心がなごみます。

 

川をしきっただけの天然洞窟温泉は野趣満点。ごつごつとした岩に腰掛けて目を凝らし、耳をすませてみましょう。朝は空の青、木々の緑、鳥たちの声、夜は漆黒、川のせせらぎ、谷に吹く風。開湯した享保年間の昔から変わらないこの天然にひたっていると、頭上の岩からポタリと落ちる一滴にハッと我にかえります

 

ご主人自ら石を切り出した切石湯は家族風呂です。ここは最近増設されたそうですが、享保年間からありました、と言われても信じてしまうほど”しっくり”きています(夜に入浴していると、子連れ狼でも出てきそうでした)。家族風呂は2箇所あります。

 

料理は、背伸びせずこの土地でできる最高のもてなし、という感じがとても粋でした(山芋の茶碗蒸しは感動モノでした)。特筆すべきは、自作しておられるという米。ご飯がとにかくうまい。米の香りがプンとして、こんなおいしい米は今まで食べたことありません。

 

食堂は天井が高く、古材の太い梁が使われていて一見の価値有り。ここで夕食時に息子(生後6ヶ月)が騒いで困ったのですが、宿のご主人が息子をあやすように連れ出してくれ、食事が終わった頃に連れてきてくれる。お陰様でゆっくり食事ができました。このさりげない心遣いに、参りました。

 

客室も黒い木造民芸調で統一され、照明も白熱等に古い電灯傘。こういう感じで全8室、なんと建物のかなりの部分がご主人らの手作りとのことに驚くばかりでした。

 

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ロビーには囲炉裏があります。そこにいろいろ旅館の雑誌がおかれているのですが、この宿がいかにいろいろな有名どころの雑誌に紹介されているかに驚きます。また、この宿の建築風景のアルバムが置かれていて、主人の手作りの模様がうかがえて楽しいです。

 

ここは、私のふるさとかもしれない。。。

 

 

野趣に富んだ温泉、建物の調度や野の花、土地の香あふれる料理・・・これらもさることながら、従業員の方々の自然ないきいきとした笑顔、夜の帳場では子供達が元気に店番。ここには、迎えてくれる「人」がいます。この宿に満足しない日本人はいないのではなかろうか、と思えるくらい。そしてこの宿には、旅情にひたれる安心感というか、「統一感」があります。ここでいう統一感とは、興ざめとなるような落差がないという程度の意味ですが、宿の統一感というのは簡単そうで難しく、例えば、宿の主人と従業員、建物の古い部分と増設部分、ハードとソフト、宿そのものと周辺の風物、「まごころ」という宣伝文句と実際の接客態度等々、違和感や温度差が発生する要因は多々あります。しかしこの宿で違和感があるとすれば、この料金でこの満足感!という、逆のプラスイメージの違和感くらいでした。家族経営的な旅館で、ここまですみずみまでいきとどいた、全体の統一感のある宿は初めてです。後日談・・・。帰りに気さくなご主人と、次はどこに泊まるか等、いろいろお話しました。よくある話です。ところが数日後に泊まった宿で「福元屋さんで、何か忘れ物はされていないですか?」と尋ねられビックリ。どうやら福元屋で泊まった時に誰かの忘れ物があったらしく、もしや我々のではと、わざわざその後の泊まり先に連絡しておいてくれたのでした。ちょっとした会話も営業トークでなく、ほんとに覚えていてくれていたとは。・・・やっぱり、ここは私のふるさとです。

 

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