湯本滝通り、須雲川沿いに並ぶ旅館の中でも茅葺屋根の佇まいがひときわ目を引く「離れ 山家(やまが)荘」。
隣接する「ホテル仙景」別館として離れ五室のみで営業する、北大路魯山人と縁の深い料亭「花の茶屋」の伝統を引き継ぐ料亭旅館です。
母屋・湯小屋・離れが点在する庭園を抜けて一番奥の離れへ。
離れからの眺望は乏しいですが造りは古き良き日本家屋で、傍らのせせらぎや蹲(つくばい)の水音とカジカガエルや鳥の鳴き声が郷愁を誘います。
部屋には源泉かけ流し伊豆石風呂が備えられています。
部屋風呂の他にレトロな家族風呂(無料貸切)、隣接する「ホテル仙景」の露天風呂(一日おきで男女交代)、大浴場(男女別)が利用できます。
泉質は単純泉、弱食塩泉、含食塩石膏泉の混合泉、源泉掛け流し。いずれも終夜利用できます。
こちらでとりわけ素晴らしいのは離れに運ばれてくる食事です。
定評ある「仙景」板長が作る本格懐石は、さすが北大路魯山人ゆかりと称するだけあって非の打ちどころもありません。
それぞれが季節感溢れる食材と盛り付け、もちろん調理・味も一級品です。
強いて言えばこの和牛鍋は蛇足と思いますが、若い人向けにこうしたメニューは必要なのでしょう。
先付からデザートまで二時間近くかけて堪能させていただきました。
夜、淡い光の庭園を歩くのもなかなかの風情。何度も三か所の風呂を楽しみました。
朝食も盛りだくさんでついつい一杯やりたくなるような内容です。
もちろん一切手抜きなしの素晴らしい献立でした。
全五室のうち季節を変えて四室に宿泊しましたが、それぞれ趣の異なる離れと四季折々の懐石料理がいつも深い満足感を覚えさせてくれる素晴らしい宿です。
ただ旅行会社の口コミなどでは、今風の宿しか知らない世代がこうした宿の風情を苦手とし、低評価をするのを散見します。
このまま時代が経過して顧客の指向がなお変化し、古き良き施設を「古いだけ」「清潔さがない」「部屋風呂が小さい」などと敬遠する年齢層が主体になってしまうことを危惧します。
改良すべきところは直しながら基本姿勢はこのまま、いつまでも継続していただきたいと思います。